経営の見える化を通じた
企業価値向上を推進
私は、2022年6月にホギメディカルの社外取締役に就任しました。会社経営を社外の視点から監督する立場でしたが、2024年4月にCFO(最高財務責任者)に就任し、社内取締役として会社の財務戦略や経営に内部から関わる立場になりました。
3年前の社外取締役就任時以前から、株主の皆さまから指摘されていたのはROEの低さです。利益率は低くはないものの、資産回転率が低く、レバレッジが低い。つまり、総資産に対して売上の伸びが弱く、また相対的に自己資本比率が高いのです。この2つの要素がROEの水準を押し下げている。ROEの改善のためには、売上成長しかありません。いかに適正な利益率を保ちながら、売上を伸ばすか。我々の答えは「戦略的な投資」と「経営の見える化」です。
売上を伸ばすことは簡単なことではありません。お客さまである病院の経営状況は決して楽観できるものではなく、我々のところにもさまざまな要請が寄せられます。しかし短期的な施策では我々の経営も病院の経営状態も決して強固なものにはなりません。したがって、今は時間がかかる施策であっても、戦略的な投資を実行し、同時に経営を見える化していかなければなりません。
第二創業期である川久保社長体制では、我々はより積極的に事業展開を行っていかなければなりません。これまでは主に生産体制への投資が大きかったのですが、ホギメディカルが今後も急性期病院に寄り添ってソリューションを提供し続けるためには、これまで以上に人財や情報基盤を強化し、周辺事業分野への投資も行っていかなければなりません。
そうした戦略的投資を行うにあたって、大事になるのが「経営の見える化」です。我々が実行する施策や投資が財務的にどのような影響を与えるのか、それを十分に吟味した上で投資を実行していくことが必要になります。株主からお預かりしているリソースを効果的に配分する、それが我々の責務です。
経営の見える化を進めることでバランスシートの改善も図っていきます。遊休資産はすでに縮減を図っています。さらに、既存のリソースの活用の仕方についてモニタリングを強化し、新規の投資対象の選定に対しても規律を強化し、資本効率の向上を図っています。規律ある投資を徹底するために投資委員会を設置し、経営企画・財務部門の投資評価機能を強化しました。投資対象については社内で議論を重ね、さらに重要案件については投資委員会を通した上で取締役会において十分に議論し、コミットメントを持った意思決定をしていきます。
この取り組みを継続的に推進するには、投資評価ができる人財の育成も必要です。財務計画を策定するだけでなく、数字の裏にあるビジネスモデルを正確に理解することが求められるため、経営企画・財務部門を中心に、FP&A(ファイナンシャルプランニング&アナリシス)を実行し、予算の管理を行える人財の育成に注力しています。財務の専門人財は経営の見える化を進める上でも重要なインフラとなるため、重点を置いて進めていきます。
事業戦略の推進に向けた
人財基盤の強化
社長直下のコマーシャル本部では、営業組織改革や製品戦略の立て直しなど、売上成長に向けた施策が進行中です。加えて、今後は技術革新に向けたR&Dへの投資も必要になります。こうした全ての企業活動においても、CFOとしての私の役割は「見える化」だと認識しています。将来の売上または失注を示唆する先行指標を現場から吸い上げ、データ化してフィードバックできる体制を整えていく計画です。データマネジメントのためだけでなく、そのデータをもとに、営業活動の改善や人財再配置、プロモーション活動の最適化など、第一線(現場)、第二線(支店長)、第三線(部長)の各レイヤーがPDCAを回せる環境の整備を目指します。そのためには現場の社員の意識改革も必要となるため、継続的な働きかけが求められますが、時間をかけてでもこの考えを浸透させていきます。
PDCAによって現場の改善活動を促すのは、経営企画・財務部門です。経営企画部門に関しては、データをもとに営業部門や生産部門など各事業部門とディスカッションできる人財の育成を進めていきます。また、事業活動と財務データの因果関係を正確に理解した上でディスカッションを深め、明確な結論を導き出すには、経営企画と財務の連携が鍵となります。そのため財務部門については、事業部門と財務的な視点からディスカッションし、支援できる人財の育成が重要です。

調達においては、よりプロアクティブに調達先の開拓や交渉を進めることが求められます。重要なのは、当社のコストだけを優先するのではなく、持続的な相互利益の関係性を築くことです。そこで、調達戦略の強化に向けて、CFOである私の配下に専門人財を採用して調達を任せ、その活動を私がモニタリングする体制を整えました。
工場においても、コストを最適化し生産性を高めるために、生産コストや人員配置、ダウンタイムなどさまざまなデータを収集し、現場でKPIを設定してモニタリングできる体制整備が必要です。データに基づいた自律的な意思決定を各担当者に促していきます。
海外拠点の収益性向上を目指す
将来にわたる持続的な成長を目指す上で重要となるのが、東南アジアにある子会社の経営指標の向上です。主に営業部門と生産部門において、業績の先行指標としてデータを活用し、現状把握に努めています。
営業部門については、実際に現地に赴き現場の声を聞きながら、戦略を推進する上で必要な予算設計やモニタリング体制の構築を進めています。製造部門については、収益力の向上が課題です。インドネシアの工場では、キット製品に組み込む不織布やプラスチック成形品を生産していますが、グローバルな価格競争が激化しています。これまで東南アジアでは、日本でのロングセラー製品や最新のキット製品を販売するというビジネスモデルを展開してきました。しかしこれをさらに進化させるには、当社の強みを発揮できるニッチ市場を見極め、より付加価値の高い製品に軸足を置いた生産体制への移行が欠かせません。現地のニーズに即したキットの製造や、他社製品の受託生産といった、これまでとは異なる戦略も視野に議論を進めています。この課題をクリアすることで収益性を改善させ、持続可能なビジネスモデルへの転換を図ります。
日本の各拠点と海外子会社との人財交流も検討しています。海外子会社の社員には、日本でのものづくりへの考え方や、インドネシアで生産した製品が日本の病院でどのように活用されているかを知ってもらい、日本で得た知識や考え方を現地での生産に活かしてほしいと思います。日本の社員にも、ゼロベースでものづくりを教える難しさを経験してもらい、その過程を通じて製品への理解力や指導力を高めてもらうことを期待しています。
将来成長に向けた課題と新たな価値創出に向けた取り組み
当社の強みは、手術で必要とされる部材などの最新情報を常に把握しながら、医療現場の方々からヒアリングした改善要望を製品開発に反映させてきたことにあります。情報をアップデートするために、営業担当者は日々医療機関に足を運び、現場に密着してきました。その姿勢がお客さまからの信頼につながり、一部の営業担当者などは、手術室運営を軸とした病院経営の収益性改善や看護師の育成など、病院経営の根幹に関わる問題について相談を受けることもあります。医療現場との深い接点、そして課題をタイムリーに捉えたソリューション提案は、もともと製品販売に向けた営業活動の一環として生まれたものですが、新たなサービスへと昇華させ収益化する価値があります。また、そこに対するお客さまからの評価も必ず得られると考えています。
新たなサービス開発の実現にはDXが極めて重要です。例えば、病院の経営改善をサポートするシステム「オペラマスター」の各データは、現在は病院ごとに個別で管理し活用していますが、集積したデータを分析することによって、一つの病院にとどまらず地域医療全体に価値をもたらす可能性もあります。
当社はもはや、医療用部材のメーカーにとどまらず、医療機関の経営を支える存在になっています。社員自身がそれを自覚し、自分たちの存在価値を一段高い次元で捉えられるよう、意識変革にも挑んでいきます。
第二創業期に入った今、新たな価値創出に向けた議論がさまざまな分野で進み始めています。こうした変革期にトップダウン経営を進めていては、ミドル層の主体性が失われてしまうという持論が私にはあります。お客さまのどのような課題に対してどのようなサービスで応えていきたいのか、ミドル層は熱意と柔軟な発想でアイデアを生み出し、具体的な事業計画を持って経営会議で提案する。経営層はそのコミットメントを見極め、リソースを投入して背中を押す。そうした関係性を構築することが変革期のマネジメントに求められていると認識しています。
株主還元の拡充と同時に戦略的投資を推進し、さらなる成長へ
株主・投資家の皆さまに対しては、増配や自社株式取得などの株主還元を拡充し、株主価値の向上を目指します。一方で、株価の向上には企業自体の成長も不可欠です。株主還元をしながらも、既存のキャッシュや今後生み出していく収益を成長投資に充て、事業拡大を目指したいと考えています。株主・投資家の皆さまには、投資の方針をご理解いただくためにしっかりご説明していきます。 投資対象は、これまでは生産設備などのハードウェアに重点を置いてきましたが、今後はサービス・製品の拡充やサプライチェーンの改革、M&Aを含めた企業間連携などにも広げていくことを検討しています。よりオープンな企業文化を育み、外部パートナーとの協力関係を強化することで顧客価値をさらに高めていけると見込んでいます。足元の実績を着実に積み上げながら、思いきった戦略的投資にも踏み出していくことが今後の目標です。

第二創業期の現在は、トランジッション(変革への移行期)のただ中にあります。中期経営計画には2035年のありたい姿としてVisionを掲げていますが、そこに至る具体的な道筋は経営陣が決めるものではなく、Visionを実現する社員の総意と熱意で決まるものだと考えています。お伝えしたいのは、その熱意の創出に力を注いでいるということです。今は、営業改革やカルチャーの変革を進め、創造的なアイデアが社員から生まれるような仕掛けをつくるフェーズにあります。Visionの解像度は現時点ではまだ低いものの、社員の意識醸成が進むとともに、具体的な方向性を明確に示すことができると見ています。
一方で、医療業界に対して付加価値の高い製品・ソリューションを提供し続けるという当社の使命はこれからも変わりません。医療制度改革や人手不足、インフレなど病院経営を取り巻く環境が厳しさを増す中、コストダウンだけで対応するには限界があります。この課題に対して抜本的な解決策を打ち出すことで我々の真価が発揮されます。それが我々の挑戦です。本来当社は、「ホギメディカルがやらずして誰がやるのか」と言えるほどのポジションにあります。持てる力を最大限に発揮し、自らの視座をさらに高めるべく、変革を加速していきます。




